お侍様 小劇場 extra

    “お話しましょvv” 〜寵猫抄より
 


もう九月も終わりなんだねぇと、
仔猫の髪のお手入れをしながら、七郎次がしみじみと口にした。
それを聞いてのことだろう、
お膝に乗っけた小さな仔猫、
みゅうぅ?と小首を傾げて肩越しにお声の主を振り仰ぐ。

 「うん。何かあっと言う間だったなぁって思って。」

学校に通ってる人がいる訳じゃなし、
九月だからどうだって事もないお家ではあるのだけれど。
衣替えとか中秋の名月とか、
十月の到来の方がよっぽどに、印象深いことなんだろけれど。

 「いつまでも学生気分が抜けてないってことなんだろかねぇ。」

会社に勤めている訳じゃあないからか、
学生さんのような感覚で季節を把握している自分なんだなぁと、
愛しの坊やの綺麗な金の髪や、小さくて愛らしいおつむ、
宝物のように丁寧に扱いながら、
そんな感慨に耽っておいでのお兄さんは、
だがだが、売れっ子作家の島田せんせい専属、敏腕秘書殿なのであり。
そろそろ年末進行がどうのとかいう、
出版界ならではな、
気の早いお話へと意識を切り替えねばならぬ頃合いでもあったりし。
本は、単行本も雑誌も同様に、
印刷という段階を経ることで、形になっての店頭に並ぶ商品なので、
編集後の印刷や配送という手間を見越しての逆算をして、
企画や執筆の締め切りを決めるわけで。
ところが盆と正月は、
出版社にどれほど人が居たところで、
印刷屋さんがお休みになってしまうとそれでもう、
売り出しへとつながる作業はストップ。
休み明けまでは在庫で勝負という運びとなる。
生鮮食品だって同じことで、
なのに中央市場や卸のお店は休みな中、
正月早々空いてる店が増えたのは、
自社倉庫に商品を充填して構えているからで…って、
いや今はそっちのお話はともかくとして。
そんな訳で、盆明けと正月号の締め切りは、
心持ち早まってのあれこれ重なる強硬進行となるのがセオリーなのが出版界。
原稿のやり取りや情報伝達、印刷技術そのものがどんなに進んでも、
まだまだ人の手でこなさにゃならない部分も多く、
作家の皆様も編集関係の方々も、
秋の頃からもう、年末の話に入らにゃならぬもんだとか。

 “…といってもねぇ。”

毎年恒例の話だし、
それに島田先生は締め切りギリギリまでかかるという、
スリリングな仕事っぷりではないお人なので。
大変だ〜っと目の色変えた覚えもあんまりないんだけどもねぇと。
まさしく お人形さんのように、
小さな小さな肩や細いうなじへかかる、
絹糸のような金絲を梳いてやりつつ話しかければ、

 「にゃあにゃvv」

通じているやらいないやら、
仔猫さんの返すお返事が、
何とも堂に入ったトーンのそれだったものだから。

 「〜〜〜〜。////////」

まあまあまあまあ、なんておしゃまなお返事をする子なんだろか。
ちょみっと肩越しに振り向きかけての、
かっくりこと傾けたお顔の角度もそれらしく。
いかにも“大人の真似っこしてみたのvv”という愛らしさ。
茶目っけとそれから、小さきものの可憐さとが相俟っての、
何とも言えぬ、ほろ甘さを醸すのが、

 “七郎次には母性をくすぐられて堪らぬのだろうな。”

支えてやらねばとつい手を出させる可憐さと、
そうやって受け止めた身から伝わる、
何とも柔らかで ささやかな、
小ささや頼りなさでの 胸を衝くよな実感と。
それでなくとも繊細で、感じ入りやすい性分な七郎次であるだけに。
うるるんと潤みの強いお目々で見つめられ、
小さなお手々がちょんと、
餅菓子のようなふわふかなやわらかさで、
こちらの指先に掴まるように触れてきたりしたらもう。
ああもう、ああもうもうと、
身を揉みよじり、してまでも、
感に堪えたる様子を見せてしまうらしくって。


 『これもまた、まだまだ先の話題かもですが、
  島田さんチの流行語大賞は、
  間違いなく“惚れてまうやろ〜〜”に決定ですな。』


編集員のお兄さんが、そんな風な言いようをしていたの、
ふと思い出してしまった壮年殿。
顎へとたくわえたお髭を、骨太な大ぶりの手で撫でつつも、
窓辺の陽だまりの優しい風景へ、
声を落として微苦笑
(わら)っておれば、

 「あ、勘兵衛様っ。」

今も久蔵と話しておったのですが…、と。
こちらの気配に気づいてだろう、
ひょいと振り返った そりゃあ楽しそうなお顔の恋女房殿と。
一丁前にも小さめのケープをつけられてのブラッシング、
愛らしくも大人しくされるままになっていた王子様まで、
軽やかなお声で“にぃみゃんvv”と、
ご挨拶くださるお出迎え。
このご一家ならではな団欒へ加わるべく、
微妙な苦笑を噛みしめつつも、
歩みを進める勘兵衛様だったりしたそうです。


  ……そりゃまあねぇ。
  こちら様はこちら様で、
  ほんの直前まで、
  意識を絞り込んでの鋭い集中を保ち。
  武士
(もののふ)の魂の凌ぎ合いという、
  崇高なる精神世界へも接した部分の大いにありきな、
  それはそれは緊迫した一騎打ちの場面を、
  数時間かかって したためてらした、
  そこからおいでの身だってのに、ねぇ?
(くすすvv)






  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.09.29.


  *今日は招き猫の日で、大天使ガブリエルの日でもあるらしい。
   がぶり寄り?と、誰もが言いそうなおやじギャグはともかくとして
(笑)
   猫といえば…と、何か書きたくなってのお話ですんで、
   大した中身はなくってすいません。
   相変わらずに七郎次さんはキュウの愛らしさに骨抜きな様子ですし、
   そんな恋女房へと、おっさま…もとえ、
   島田せんせえもまた骨抜きなご様子でございます。
   1年経てば人間の子供でももっと育ってそうなもんですが、
   子育て経験のないイツフタ夫婦なので、
   小さいままのキュウ猫だってこと、
   あんまり不審には思ってないらしいです。
(笑)

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

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